背景と課題
Project 発足の背景
月経を語ること、月経対処を支援することは、今や国際的なムーブメントとなっています。2010年代のはじめころから月経衛生対処(Menstrual Hygiene Management: MHM) が徐々にグローバルな波として広がる中、月経対処や月経観についてアフリカでのフィールドワークと国際比較の共同研究が、MeWプロジェクトのベースになっています。月経のある人々のウェルビーイングの向上は、グローバルな視点から見ると国境を超え日本においても研究・実践されるべき課題だと私たちは考えています。
月経と生理用品をめぐる課題
MeWプロジェクトでは、
下記のような色々な視点から
月経と生理用品をめぐる
課題考えていきたいと思います。
- ジェンダー平等
- タブーとプライバシー
- 「女性の貧困」
「子どもの貧困」
(生理用品等の経済的負担) - 月経の尊厳・人権
- ダイバーシティと多文化共生
- 身体と健康
- 月経教育・包括的性教育
- トイレ内の生理用品無償提供
ディスペンサー・しくみ作り - 被災者支援
(避難所における生理用品支給)
MeWディスペンサーの開発と改良
素材に関する実証実験
生理用品無償提供用のディスペンサーの開発
MeWプロジェクトでは、トイレ内のディスペンサー設置のさまざまな在り方を検討するために、2021年当初、2種類の異なる素材のディスペンサーを開発しました。生理用品を衛生的かつ取り出しやすいカタチを目指しました。両方のタイプとも、生理用品の選択肢を提供することを重視し、3つの取り出し口をつくりました。ナプキン用が2口とタンポン用が1口です。
タイプ1:薄型段ボール製の組み立て式ディスペンサー(MeWディスペンサー)
強度を確保しながらも軽量な薄型段ボールを利用しています。運搬や保管のときはフラットになって、簡単に組み立てられるようになっています。避難所における生理用品の配布に問題があった事例を耳にしますが、トイレ内に生理用品のディスペンサーがあることが一つの解決策になると考え、考案しました。 避難所等(あるいはイベント会場)で利用された場合、避難所の閉鎖後に他の段ボール製品とともに資源ごみとして廃棄が容易です。
学校等でも、軽量で設置が容易なので、トイレ内設置用の導入として利用可能です。

タイプ2:PLA製のディスペンサー
PLAとは、ポリ乳酸(Poly Lactic Acid)という植物由来、生分解性のプラスチックです。近年、プラスチックのゴミ問題が注目されていますが、プラスチックと一言でいっても多様です。MeWプロジェクトでディスペンサーの材料を検討する上で、環境のことも考えました。3Dプリンターで作りました。しかし、PLA製は量産する際のフィージビリティの面から、実証実験のみとなりました。

MeW ディスペンサー(段ボール製)の改良の過程
第1世代
人間科学研究科での実証実験開始。ステッカーを貼って、オンライン・アンケートのQRコードも添付。
2021年9月〜
第2世代
軽量化や消費量を鑑みて、タンポンディスペンサーを細く。
また、吊り下げられるように耳をつけた
2022年3月~
第3世代
ファイルボックスのバージョンを追加。フルバージョン、ファイルボックスバージョン、ナプキン単体バージョンで、一般販売の開始。
2022年7月~
第4世代
さらに多様なサイズのナプキンに対応できるようにした ナプキンディスペンサー1の内箱のサイズを可変式に。
2022年3月~
利用者アンケート
月経に関する意識調査
意識調査を行い、生理用品というモノにとどまらない月経をめぐる諸課題について明らかにします。調査方法は、ディスペンサーにつけたQRコードを経由して質問票調査に回答頂くものに加え、インタビューやフォーカス・グループ・ディスカッション(FGDs)も用います。
I. トイレ内での生理用品無償提供のニーズについての調査
アメリカやヨーロッパでは、学校や公共施設のトイレ内で生理用品を無償提供する地域が拡大しています。そこで、学校のトイレに生理用品が配備されることのニーズを調査しました
Q1. 学校のトイレに生理用品が配備されてほしいと思いますか?(n=133)
MeWディスペンサーの利用者およびMeWディスペンサー利用経験のない学部1年生の133名を対象にアンケートに回答して頂きました。

大阪大学人間科学研究科では、実証実験としてトイレ個室内とトイレの共用部分にMeWディスペンサーを設置しています。そこでのディスペンサー利用者に限定して回答を得ました。

II.ディスペンサーをトイレ内に設置したことに対する声
ディスペンサーをトイレ内に設置したことについて、アンケートの自由記述式の部分に寄せられた声の一部をご紹介します。
「設置されているだけで生理の辛さを共感してもらっているような、しんどいのは自分だけではないという温かい気持ちになった。また生理はなりたくてなっているわけではないから学校や社会が支援してくれるのはありがたい。」
「生理用品を持ち運ぶのを忘れたり、突然生理がきて手持ちがないことがある。そういうときにコンビニなどで買うと高くつくし、荷物もかさばる。また、私は生理が重くナプキン以外にもピルや鎮痛剤も使用するため、設置によって経済的な負担が少しでも軽くなるならありがたい」。
「毎月数百円の生理用品でも、生活費がかつかつの状態では快く支払うことが出来ません。必要不可欠だとは分かっているし、買おうと思えば買えるし、実際買う。けど、買わなくていいなら買いたくない。というような複雑な心境ですが、こういうことはただの「わがまま」として片付けられてしまうことだと思ってなかなか言えません。今回のディスペンサー設置は、機能的にありがたかったいだけでなく、こうした自分に向いた極めて控えめな否定的感情の蓄積すらも解放に導いてくれたような気がします。しかも、こうしたメッセージが、毎日長い時間を過ごす大学という場で発信されるということをとても嬉しく思います。」
「トイレットペーパーと同様、必要な人には全員に行き渡るべき衛生用品だと思うので無償で全トイレに設置されてほしい。」
「トイレに生理用ナプキンがあることに『議論』が起こらないくらい当たり前になってほしいです。」
「他学科ですが利用しました。急に生理がきて、周りに同性も少ないので、頼れる人がいなくて急に生理が来るとトイレットペーパーで乗り切ります笑 たまに困ります。このような設備が他学科にも普及してほしいです。」
MAP
大阪大学内設置場所
阪大生の「生理用品が取れるトイレはどこにあるの?」という声にお応えして、大阪大学内のディスペンサーを設置しているトイレのマップを作成しました。(2023年9月)
維持管理の仕組みづくり
補充やディスペンサーの不具合を報告できる仕組み

利用者と補充する側の利便性向上のため、QRコードを読み込んで、補充の必要やディスペンサーの不具合があった場合に報告できる仕組みを作りました。(2023年6月)
研究実績
メンバーの研究内容
MeWプロジェクトメンバーの研究内容紹介
MeWプロジェクトのメンバーは、多様な研究テーマに取り組んでいます。
・「生理用品を通した月経の諸課題の実証研究」(2021~、MeWプロジェクトメンバー)
・「現代日本における月経教育の在り方の検討」に関する研究 (2022~、杉田:科研)
・「大阪府の高校における生理用品無償提供用ディスペンサー設置の実証研究」(2022〜2023、杉田・小塩)
・「3歳児の口腔衛生状態と母親の育児感情との関連」(2021-2022、原)
「『どうにもできないこと』という問いかけーアルコホーリクス・アノニマスから生命へー」(2022、 小林)
・「バングラデシュの児童養護施設のケアにおける性(生)の育み」(2022〜、木原)
・「ネパールカトマンズ市の男性教員による月経教育の意義と課題」(2022~、三浦)
・「生理用品という「モノ」の変化が与える身体感覚-月経カップ使用者に着目して-」(2022~、熊野)
・「月経フレンドリーな公衆トイレ・公共トイレの6か国共同研究」(2023~、杉田、三浦、熊野)
・「ジンバブエにおける都市部の女性の月経対処」(2023〜、小塩)
・「中国農村部における児童たちの月経対処と月経観」(2023〜、付)
・「刑務所における月経対処の実態と人権の視点からの考察」(2023〜、小島)